薄毛と遺伝との関係は、かなり詳しく解明されています。
2005年にフランスのボン大学の研究チームが発表した内容は、X染色体にある男性ホルモンのアンドロゲンの受容体(アンドロゲンレセプター)の感度が高い遺伝子を持つ場合と、5αリダクターゼの活性力が高い遺伝子を持つ場合には、かなり高い確率で薄毛が進行するというものです。
X染色体は母親からの遺伝なので、母系家族に薄毛の人がいる場合には、自分にも可能性があるかもしれません。
海外には男性ホルモンのテストステロンを投与する実験が行われた事例があるのですが、家系に薄毛の人がいない人にテストステロンを投与しても変化はなく、家系に薄毛の人がいるけれど本人は薄毛ではない人に投与した場合には薄毛が始まったとされています。
体内のテストステロンが増えても、遺伝によっては薄毛にならない人もいるということなのです。
目次
薄毛に関係する2つの遺伝子
今後更に新しい事実が解明されることもあるかもしれませんが、現在のところ解明されている内容は、薄毛に関する遺伝子は2つあるということです。
一つは最近良く知られるようになった5αリダクターゼの活性に関する遺伝子、もう一つは冒頭で触れたアンドロゲンレセプターの感受性の高さに関する遺伝子です。
薄毛を進行させるジヒドロテストステロンは、テストステロンと5αリダクターゼという酵素が結合して生成されます。
冒頭の実験でテストステロンの投与によって薄毛が進行した人は、体内にこの5αリダクターゼ酵素を多く持っている体質だと言えます。
そして、ジヒドロテストステロンは毛乳頭にあるアンドロゲンレセプターと反応するとヘアサイクルが乱れるのですが、アンドロゲンレセプターの感度が高いとその反応も加速されます。
つまり、薄毛の遺伝子を持っている人はこのジヒドロテストステロンがアンドロゲンレセプターと反応しやすいという傾向にあるのです。
アンドロゲンレセプターはホルモンを感知する器官ですから、反応し過ぎることで毛母細胞の分裂が止まりやすいのです。
5αリダクターゼは優性遺伝子
遺伝子には優性遺伝子と劣性遺伝子があります。分かりやすいたとえをするなら血液型の決定です。
血液型にはA、B、O、ABがありますが、遺伝子はA、B、Oの3種類となっています。父親と母親から1つずつ受け継いで血液型が決まるのですが、A、Bはそれぞれ優性遺伝子です。たとえば父親からAの遺伝子、母親からOの遺伝子を受け継ぐとAO型となり血液型はA型になります。両親からともにO型の遺伝子を受け継いだ場合はOO型つまりO型になるのです。
これを薄毛で見てみると、5αリダクターゼを活性化する遺伝子は優性、活性化させない遺伝子が劣勢になります。
つまり父親あるいは母親のどちらかが5αリダクターゼ活性化遺伝子を持っている場合、子供に5αリダクターゼ活性化遺伝子が受け継がれる可能性は高くなると言うことです。
もう一つアンドロゲンレセプターの感受性についてはCAGリピートの長短で決まります。CAGリピート数は遺伝子の配列の繰り返しのカウントです。
塩基成分3つを順番に配列してリピート数を調べるのですが、繰り返しが少ない場合ジヒドロテストステロンに反応しやすいと言えます。
薄毛の遺伝は誰から?優性遺伝子って?
優性遺伝は、他に対立する遺伝子がある時に、優位に表れる遺伝子を差しています。
5αリダクターゼ活性を持つ遺伝子は優性遺伝子で、父母のどちらか一方でもこの遺伝子を持っていれば、子供にも受け継がれる確率が高いと言われています。
アンドロゲンレセプターの感受性を決める遺伝子はX染色体に存在するため、母親のものが息子に引き継がれることになります。つまり、母方に薄毛の症状がある場合、隔世遺伝として現れることになります。
隔世遺伝なので母方の祖父がハゲなのかどうかが大きなポイントという事です。
自分の薄毛か遺伝によるものなのかは診断が必要
自分の薄毛に遺伝が関係あるかどうかは、AGAリスク遺伝子検査を受けるか、アンドロゲンレセプター検査を受ける必要があります。AGAリスク遺伝子検査のほうは、特定部位から毛髪を毛抜きで抜いて検査します。
この結果によって5αリダクターゼのⅠ型とⅡ型両方を阻害したほうが良いのか、Ⅱ型だけを阻害したほうが良いのかがわかります。
またアンドロゲンレセプター検査のほうは、男性ホルモンのテストステロンやジヒドロテストステロンを受け取るための受容体(レセプター)を検査する方法で、受容したものからどれくらいの影響を受けやすい体質なのかを知ることが出来ます。
こちらは血液を採取して調べる検査で、男性のみ検査出来ます。
検査結果が出るまでは約1ヶ月かかりますが、どういった治療が一番有効なのかもわかるので、はっきりさせるためには一度精密検査をしてみるのは重要です。
一度受ければDNAがわかりますから、受けるのは一生に一回でOKです。
ミネラル検査もある
身体のミネラルバランスを調べる検査もあり、こちらは主に食生活や生活習慣の原因で薄毛が進行している場合に知ることが出来ます。
検査は髪の毛を採取して行いますが、その時に不足しているミネラルと摂り過ぎているミネラルとが一番正確にわかり、全体の体内バランスを知ることが出来ます。
実は血液よりも体内のミネラルバランスを正確に反映するのは髪の毛なのですね。
ミネラルバランスの偏りが原因の場合、遺伝には関係なく、食事やサプリメントでバランスを補うことで治療出来る場合があります。ただし、原因がいくつも複雑に絡みあっている可能性もあるので、受ける場合には先に遺伝的な原因が無いことを確認してからのほうが良いでしょう。
遺伝子検査キットもある
自分に遺伝子が引き継がれているかどうか調べるには、遺伝子検査があります。
病院やクリニックで受けることも出来ますし、遺伝子検査キットを購入すれば自宅で検査して郵送することも出来ます。検査方法は血液や毛髪、口内粘膜を採取してDNAを調べるというものです。
結果が出るまで1ヶ月程度かかりますが、検査結果の正確さには定評がありますので、ほぼ間違いなく自分の体質を知ることが出来ます。
薄毛遺伝子があれば必ず発症するのか?
一番気になるのは、もし自分に薄毛の遺伝子があった場合、将来必ず発症するのかどうかという点でしょう。これに関しては、例え遺伝子を持っていても必ずしもそうなるというわけではありません。
統計的には、遺伝が原因のAGA発症率は25%程度と言われていますので、
確率としては4分の1。
トリガーとなっているのは主に生活習慣やストレスなので、発症原因は複雑に絡んでいるのです。例え遺伝子を持っていても、ストレスを溜めず、正しい生活や運動などを続けていれば、薄毛は予防することが出来るでしょう。
睡眠も食事も大切ですし、正しい頭皮環境をキープし続けることはとても大事ですね。
リスクを知るという意味では、きちんと検査を受けて自分の体質を理解しておくのも良いでしょう。懸念材料があるなら薄毛の兆候が見えないうちに育毛剤などでしっかりケアしておくのも良い方法です。
薄毛の原因がAGAという病気である場合、遺伝が大きく関係していると言うことが出来ます。薄毛にもいろいろな状況があるので、単に見た目の症状だけでは判断は出来ません。
遺伝だと思い込んで育毛剤を使っていても効果がない場合もありますし、遺伝を放置して違うアプローチをしていても薄毛がどんどん進行してしまう場合もあります。
生命に別状はないとしても、取り返しがつかなくなる前に正しい対処をするためには、自分の薄毛の原因についてきちんと理解しておく必要があるでしょう。
もし検査の結果遺伝があることがわかったとしても、今ではコントロールすることで発症を防ぐ手段もありますので、専門のクリニックで検査を受けることも考えたほうが良いかもしれませんね。
育毛剤博士
薄毛になるかは生活習慣や食生活も大きくかかわっているのじゃ。
つまり不規則な生活習慣や栄養バランスの悪い食事を取っていれば薄毛になりやすいし、ストレスを解消していれば薄毛にはなりにくいと言うことじゃ。
遺伝も関係はしているが、まずは身の回りのことを見直してみるのも一つの方法じゃな。